第19章 「死に咲く花」
《五条悟様、様――》
《まもなく最終搭乗のご案内となります。3番搭乗口までお急ぎください》
突如、場内アナウンスが響いた。
……今、名前呼ばれた?
「――っ、せ、先生、私たち最後みたい……急がないと……っ!」
慌てて体を離そうとするが、先生はびくともしない。
「……せんせぇ?」
不安になって呼びかけると、先生はニコッと笑った。
あ、この顔の先生は大抵ろくなこと言わない。
「、東京帰るのやめてさ。このまま温泉行っちゃおうか?」
「――は、はいっ!?」
あまりに突拍子もない提案に、思わず声が裏返る。
「うん、決まり」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、えっ!? 飛行機は!?」
「キャンセル~。僕が言えば大丈夫」
「言えばって……っ、先生、冗談……ですよね?」
あたふたと叫んでも、先生はさっさと手を引いて歩き出す。
(嘘でしょ……っ、ほんとに……?)
(なにこの人……無茶苦茶だ……)
搭乗口のカウンター前で、先生はCAさんに声をかけた。
「すみませーん、僕と彼女、搭乗キャンセルでお願いしまーす」
「えっ……? お客様、もう最終搭乗が始まっておりまして――」
CAさんが困った顔でマニュアルらしい対応をする。
(だ、だよね……)
(今さらキャンセルなんて、普通に無理だよ……)
私は顔を伏せて、心の中で何度も謝った。
(ほんとに、ごめんなさい……!)
先生は突如わざとらしく大きく息をついた。
「……うーん、困ったなぁ」
そのあと、私の肩に軽く手を添えて、
「彼女、ちょっと熱っぽくてさ?」
「せ、先生……っ」
そして、先生はゆっくりサングラスを外す。
あの蒼い眼差しが、真っ直ぐにCAさんを射抜く。
すると、さっきまで業務モードだったCAさんの表情がみるみる変わっていく。
今、目にハートマーク見えた気がした。気のせい?
「は……はいっ、キャンセルですね。あとはこちらにお任せくださいっ」
完全に、さっきとは違うトーン。
さっきまでの対応、どこいったの!?