第19章 「死に咲く花」
逃げる暇もなく、唇が触れた。
柔らかくて、湿ってて、でも、冷たい。
先生の吐息と一緒に流れ込んでくる水が、口の中を満たしていく。
「っ……ん、ぅ……」
舌が入り込んで、絡んでいく。
ただ水を渡すだけじゃない。
その動きに、意識が一気に攫われていく。
私はゆっくりと口に入った水を飲み込んだ。
先生の舌がまだ触れていて、その熱まで一緒に流し込むみたいに。
唇が離れたときには、肩で息をしていた。
「口も洗えて、キスもできて、一石二鳥でしょ?」
先生はにやっと笑って――
そこで終わらせるみたいに、私の額にキスを落とした。
舌がまだじんじんする。
唇も、まだ先生の感触が消えない。
気づけば、私は先生のシャツの裾をぎゅっと掴んでいた。
今、私はきっとひどくわがままな顔をしてる。
「あー、そんな顔しないでよ」
先生は困ったように笑って、私の額にまたひとつ短くキスを落とす。
「僕だって……我慢してるんだからさ」
その吐息とともに溢れた声に、体温が上がっていく。
(……我慢しないでほしい)
先生の手がそっと私の髪に触れた。
耳の横にかかっていた髪を、ゆっくりとかき上げる。
指先が耳たぶの輪郭をなぞって――そのまま、頬に触れる。
見上げた視線の先、先生の顔が近づいてくる。
「……」
それが、唇を塞ぐ直前の合図みたいで。
私は目を閉じた。
唇がまた重なりかけたその瞬間――