第19章 「死に咲く花」
ズズ……ズ、ズズ……
まるで、何かが這い出してくるような、湿った音。
それは「根」が張るような、不快な音に聞こえた。
ふたりが部屋へ戻ったとき、
男の死体の胸元が、わずかに脈打つように盛り上がっていた。
「五条さん……」
五条は死体の前でしゃがみ込み、男のシャツをそっとめくる。
「……っ」
そこには、胸骨を内側から突き破るように――
白い花が咲いていた。
♢ ♢ ♢
「――ってわけ」
先生が大福を食べながら、そう言った。
「また……花が……」
私は思わず息を呑んだ。
「その男が発送していた荷物ですが」
七海さんが淡々と続ける。
「中身は、例の《Re:bloom》の“裏サイト”で売られていたもので間違いないしょう。男のスマホの履歴やメールも確認しましたが、本当に、ただ言われた通りに動いていただけのようです」
新田さんが口を開く。
「でも、五条さんたちの話からすると……今回のご主人以外にも、それを“手にしてる”人がいるってことっすよね?」
「いるだろうね」
先生が、最後の大福を口に入れながら呟く。
「問題は、それが何なのか。そして、どれだけの量あって、どこに流れてるかが不明ってこと」
「一番厄介なのは――」
一度だけ言葉を切り、ゆっくりと続けた。
「死んでからじゃないと、花が咲くかどうかはわからないってこと」
その一言に、背筋を冷たいものが這った。
本人すら気づかないまま、体内で潜み続ける呪い。
死によって、はじめて咲く花。
(じゃあ……)
今もこの世界のどこかで、花が咲いているのかもしれない。
今も誰かの“中”で、あの白い花が静かに息を潜めて育っているのだとしたら――
震えそうになる指を、膝の上できつく握りしめた。
「花が咲くまで何も……できないんですか……?」
自分の問いが、空気をさらに重くしたような気がして、思わず目を伏せる。
数秒の沈黙が落ちた。
やがて、七海さんがサングラスを中指で押し上げ、一つ息を吐いてから口を開いた。