第19章 「死に咲く花」
「いえ、全く手がかりがないわけではありません」
「おそらく、あのサイトで購入する人間は、“死”に近い場所にいる人間でしょう。たとえば、余命の宣告を受けた人や、重い病を患っている人など」
「また、自殺願望者や、精神的に極端な追い詰められ方をしている人間も含まれるでしょう。苦痛からの解放を望む心が、あのサイトを呼び寄せているのかもしれません」
「ですから、医療機関の情報、終末医療のリスト、カウンセリング記録などから、調査対象を絞ることは可能です」
先生が指を組みながら、短く頷いた。
「ま、それでも範囲は広いけどね」
そして、背もたれに体を預け、軽く息を吐く。
「あの白い花の目的がわからない以上、花が咲く前に止めるしかない」
「っすね」
新田さんがスマホを取り出しながら、勢いよく頷いた。
「配送に使ってた運送会社も調べましょう。荷物の配送先が偏ってたら、それも手がかりになるかもしれないっす」
私も思わず言葉が出た。
「私も、手伝せてください。このまま待ってるだけなんて、もう嫌だから」
その言葉に、新田さんが少し驚いたように目を見開いて、それから目尻を下げて笑った。
「さんがいれば、百人力っすね」
やれることは、少しでもやりたい
諏訪烈の思い通りになんか、させない――
「……ANA便648、東京羽田行きご搭乗のお客様は、ただいまより第3ゲートにて優先搭乗を開始いたします。小さなお子様連れのお客様からご案内いたします……」
アナウンスがラウンジに流れると、七海さんが立ち上がった。
「そろそろ搭乗の時間ですね」
「じゃ、僕はソフトクリーム買ってこよーっと」
「まだ食べるんですか」
呆れたような七海さんの返しに、先生は「食うよ。最後に、阿蘇ジャージーソフト食べないと」と笑っていた。
私も立ち上がり、手荷物を持って歩き出す。
でも、疲れているのか……足が少し重い。
その時だった。
「……あっ!」
目の前で、小さな子が躓いて転んだ。
手から離れた紙パックのジュースが、床にぶつかって弾ける。