第19章 「死に咲く花」
男の首元の血管が、不自然に浮き上がっていた。
まるで黒い線を這わせるように、皮膚の内側を何かが這い、広がっていく。
「た、たす……っ、助け、て……!?」
「げ、ほっ……ぅ……!」
ごぼっと濁った音と共に、口から黒い液体が漏れた。
それは血ではなかった。
もっと粘性が高く、黒紫色に濁った液体。
男の腕が、七海の足元へ伸びた。
がくりと身体が沈む勢いのまま、七海の革靴の先をつかむ。
「……っ」
爪が食い込むほどの力。
七海は眉ひとつ動かさず、その手をただ見下ろしていた。
男の目が大きく見開かれる。
白目がぐるりとむき、喉がひきつるように跳ね――
そして、大きく痙攣したのを最後に、全身の動きが途切れた。
室内の空気が、ぴたりと凍りついたようだった。
七海は無言で屈み、男の首元に手を伸ばす。
「……死んでますね」
立ち上がりながら、七海が静かに言った。
男の口元から垂れた黒い液が、床にぽたりと落ちる。
それが異様に濃く、染みのように地面に広がっていく。
五条は死体に視線を落としながら、サングラスをかけ直す。
「一定の時間が経ったら強制的に発動する術式……口封じってとこか」
「を連れて来なくてよかったよ」
五条はそう言って、ため息をつきながら立ち上がった。
七海は部屋に視線を戻し、静かに言った。
「部屋の様子からして……この男が預かっていた荷物は、すでに発送し終えた後のようですね」
五条が目線を巡らせる。
「だろうね。だから、もう用済みってわけだ」
「とりあえず帳だけ下ろして、死体の処理は任せよう。流石に死体の処理は手に余る」
「……新田さんに連絡してきます」
七海が頷き、スマホを手に取りながら階段の方へと向かっていく。
その背中を見送りながら、五条も伸びをひとつ。
だが、その足が階段の中腹でふと止まった。
「七海、今の……」
「ええ。聞こえました」
ふたりが再び地下室の奥へと振り返る。