第19章 「死に咲く花」
「……足の方がいいみたいですね」
その刃を男に突きつけると、男は震えながら顔を上げた。
「っ、や、やめてくれ……っ!」
「ほんとに、ほんとに知らねぇんだって……! 呪詛師御用達の闇サイトで、求人が出てたんだよ! 呪具や呪符の代行発送をするっていう簡単な仕事だ」
「欲しいもんがあって……ちょっと、小遣い稼ぎにやってただけだよ……!」
五条は大げさに溜息をつきながら、片手をポケットに突っ込む。
「はぁ~~……呪術師は命張って年がら年中働いてんのに、お前ら呪詛師は小遣い稼ぎかよ。いいご身分だなぁ、ほんと」
七海も男に冷ややかな視線を向ける。
「あなたがしたことは、“ちょっとしたバイト”で済む話ではありませんよ」
七海は続けて男に問いかける。
「指示は、誰から?」
「全部メールで、誰かはしらねぇ……!」
「問い合わせもできねえの。返信とか送っても、自動応答しか返ってこなくて……っ」
「届く荷物の中身は?」
「わかんねぇよ……!絶対開けるなって言われてて、中身はしらねぇ!」
その言葉に、五条は小さく舌打ちした。
「中身も知らずに、荷物を運んでたってわけ?」
「救いようがないな。頭も使えず、責任も持てず。そういうの、一番嫌いなんだよね」
そして、五条は男の襟元を掴み、ぐっと顔を近づけた。
「諏訪烈って名前、聞いたことは?」
「なんだよそれ……知らねぇよ……っ!」
「ほんとに、指示されたこと以外、何も……!」
「俺のスマホ見てくれればわかる! 全部そこに残ってる……!」
声が震えていた。
恐怖で濁り、必死に命乞いをするような色が混じっていた。
五条と七海が視線を交わす。
七海が静かに問いかけた。
「あなたのスマホは、どこに?」
「……ズボンの、ポケットの……中っ……」
七海は男の腰のあたりを探るように手を伸ばし、ポケットの中からスマートフォンを取り出した。
だが、その瞬間――
男の体が、ビクンと大きく跳ねた。
「……っ、あ……!?」
五条と七海は何かを察知し、即座に男から一歩下がる。
男の肌の下で、何かが脈打つように蠢いた。
「――七海」
「……これは……」