第17章 「花は蒼に濡れる**」
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窓の向こうが、少しずつ明るくなっていく気配がした。
うっすらと瞼を開けると、カーテンの隙間から差し込む光がまだ青くて淡い。
(……もう、朝……?)
隣を見ると、先生が乱れたシーツの上に片腕をゆるく投げ出して眠っている。
布団の隙間からのぞく鎖骨のライン。
呼吸に合わせて静かに上下する胸。
かすかに眉間の力が抜けた寝顔は、あまりにも穏やかで、驚くほど無防備だった。
(……寝顔、なんか可愛いかも)
あの強くて、ふざけてばかりで、誰にも隙なんて見せない人が――
今は私の隣で、こんなに静かに眠ってる。
私はそっと布団の中で身体を動かす。
脚を引き寄せると、まだ奥のほうが少し痛んだ。
けれど、その痛みさえも、なぜか愛しくて。
(……わたし、ほんとに……)
あのとき先生の腕の中で、何度も名前を呼ばれて。
何度も求められて。
気づけば、自分でも知らない声を何度もあげていた。
眠っているその頬にそっと指を這わせる。
昨夜、何度も触れられた場所に今度は私の指先がそっと触れ返す。
「……先生、好き」
起こしたくなくて、小さな声で呟いた。
けれど先生は目を開けず、代わりに私の手を探すようにゆるく握ってきた。
(起きてる?)
そう思ったけれど、先生はそのまま、また動かなくなった。
ただ、その手のひらが私の指をあたたかく、包み込んでくる。
まるで、夢の中でもわたしを離さないって――そう言ってるみたいで。
私は先生の腕の中に、もう一度そっと身を委ねる。
この時間がずっと終わらなければいいのにと、そう願いながら。