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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第15章 「その悔いは花冠に変わる」


波打ち際に届く直前、女の子がふいに立ち止まった。
海に向かって、そっと手を伸ばす。

 

「……お父さん……お母さん……?」

 

その声に、私は思わず視線を向けた。

そして。

 

月明かりの下、波打ち際に“それ”はいた。

 

(……っ!)

 

眼鏡越しに見えたその姿に、私は息を呑んだ。
ぼんやりと霞んでいた“気配”がくっきりと姿を結ぶ。

 
黒い影が、波の中から這い出すように現れていた。
半透明の皮膚のようなものがぐずぐずと溶け、歪んだ手足が引きずるように砂を這う。
顔らしき部分には、空洞のような眼がいくつも浮かんでいて――

 
(昼間は呪霊の気配なんかなかったのにっ……!)

 
冷たいものが背中から首筋を這い上がってくる。
けれど、足はすぐには動かなかった。


あまりにも“おぞましい”その姿に、一瞬息をするのも忘れたほどだった。

 
女の子が、ふらりとその影に向かって歩き出す。

 

「だめっ!!」

 

私は我に返り、思わず叫んでいた。
足が自然に動いて、女の子の腕を掴んで引き止める。

 
女の子はびくりと肩を揺らし、振り返る。

 

「離してっ……! わたしのこと、名前で……っ」

 

私は強く言った。

 

「ちがう! あれはお父さんでもお母さんでもないっ!」



必死にそう叫んだけれど、女の子の目は私ではなく呪霊を見ていた。


あの、おぞましい――
それでもどこか人間の形を模した異形の影を。

 
女の子が、私の手を振り払う。

 

「わたし、聞こえたもん! 呼んでたもん! わたしの名前を――!」

「まって! 近づいちゃダメ!」

 

私は慌てて手を伸ばす。


けれど、その手は届かなかった。
女の子は、地面を蹴って走り出した。

 

その時だった。
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