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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第15章 「その悔いは花冠に変わる」


私の両親は東北の震災で亡くなった。
あの大きな津波が、すべてをさらっていった。
父も母もどこかへ流れたまま、今でも遺体は見つかっていない。


だから私は、あの時からずっと――


「二人は死んだ」と心から思えていない。
頭ではわかってるはずなのに、心のどこかでまだ信じきれない自分がいる。
もしかしたら、帰ってくるんじゃないかって……
そんなありえないことを、今もずっとどこかで願ってる。


七年も経ったのに。


女の子が胸元のキーホルダーを大切そうに撫でている。


似ている、と思った。
帰ってこない人を待ち続けている姿が。



「……お兄ちゃんがね」

 

女の子が、ぽつりと呟いた。

 

「“すごく会いたいってちゃんとお願いすれば、会えるかもしれない”って言ってたの」

 

私は思わず、女の子を見つめた。

 

「お願い、すれば……?」

 

女の子は小さくうなずいて、海の方を指差した。

 

「うん。ここにいると、ときどき聞こえるの。お父さんとお母さんの声」

 

「え?」

 

私は素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「海のほうから、聞こえてくるんだよ」

 

指差された方向に、視線を向ける。
静かな波が、夜の海面をなぞるように揺れていた。


(えっ……そ、それって、もしかして……やっぱり幽霊的な……)

(うう……やだやだやだ、怖いっ……!)


両手にぐっと力を込めて、小太刀を握り直す。
 


「あ、また聞こえる」



女の子がそう呟いたかと思うと、ぱたぱたと波打ち際の方へ駆け出していく。

 

「あっ、ま、待ってっ!」

 

私は慌てて声をかけながら、そのあとを追いかけた。
けれど女の子は振り返りもせず、どんどん海に近づいていく。

 
(え、ちょ、ちょっと待って!? どこ行くの!?)

(わたしには――何も、聞こえないのに……!)


夜の海風が、頬を撫でていく。
さっきよりも冷たくなってる気がするのは、気のせいじゃない。

 

「危ないよ、行っちゃダメっ!」

 

声を張り上げながら、私は小さな背中を追う。
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