第39章 心は運命も本能も飛び越える✿保科宗四郎✿裏
日本防衛隊第3部隊に所属してから、もう少しで1年になる。本当はこんなところに就職しない方がいいのだが、どうしても夢を叶えたかった。怪獣を倒したかった。私のような孤児を、もう見たくはないから。
自身の性別を隠してまで入隊したが、そろそろ限界かもしれない。年度が変わればまた、身体検査がくる。入隊時は血液検査などがなかった為、免れたが、今回ばかりはダメかもしれない。
訓練後の隊員たちで賑わう食堂から抜け、中庭で夜風を浴びる。
「寒くないん?」
声と独特な訛りで姿を見ずともわかる。後ろから声をかけられ、振り向きながら敬礼をした。正直、この人には近付きたくない。――保科副隊長。
入隊時からこの人の姿を見る度、心臓が跳ね上がり、身体が熱くなる。私は劣勢のはずなのに……この性別の本能など知らずに生きてきたのに、この人の前では、その性が顔を出す。
「大丈夫です。副隊長こそ、冷えてしまいますよ。お戻りください」
「ん〜……もうちょい、おろうかな。君の近くは心地いい。ええ匂いするしな」
この私が、そんなわかるほど匂いが出ているのだろうか……。
「……セクハラと受け取ってもよろしいのでしょうか?」
「え〜勘弁してやぁ。そんなつもりあらへんのに……」
やはり、保科副隊長は……α。きっとここは、獣たちの巣窟だろう。Ωである私が入隊出来るはずもない場所。防衛隊はαかβのみなれる職種だ。
副隊長と少し話し、夜空を見上げる。そうしていると、亜白隊長を筆頭に、同期たちがわらわらと中庭に出てきた。今までこんな風に誰かが来ることはなかったのに。
亜白隊長もαだろう。同期のキコル、市川くん、出雲くん、神楽木くんたちもαだと思う。日比野さんは恐らく、β。伊春くんは……どっちだろう。わかりにくい。
みんなに挨拶をしていると、珍しく連れられている亜白隊長のペット、伐虎が私たち目掛けて走ってくる。そのまま保科副隊長の背中に伸し掛り、副隊長は私の肩を掴みながら踏ん張った。
近付いた首筋から鼻腔を刺激する、圧倒的なオスの匂い。保科副隊長も私の首筋から香った匂いに、指を肩に食い込ませた。――やばい。