第2章 人形の家
客室から出ると、あたし達は直ぐにナルへと礼美ちゃんが今朝言っていた言葉を伝えた。
「礼美ちゃんがそんなことを?」
「うん……なんか、気味悪くない?」
ナルは暫く考え込むと、典子さんにミニーを見せてもらうよう伝えた。
典子さんは少し悩んだ様子を見せたが、今朝の礼美ちゃんの言葉を思い出したのか直ぐにミニーを持ってきてくれた。
最初は可愛いように見えたミニーだが、あの言葉を聞いてから少しだけ気味が悪く感じてしまう。
「ミニーなら、これですけど……。この家に越してくる直前に兄が買ってやったんです」
「礼美ちゃんの様子が変わったのはそれ以前?以後?」
「後……だと思いますけど」
ミニーを興味深く見つめていたナルだが、それに割って入るように礼美ちゃんの叫び声が響いた。
「かえしてっ!」
「礼美ちゃん……」
「ミニーかえして!さわらないで!」
「礼美ちゃん、ミニーとお話ができるんだって?」
「だれもさわっちゃだめ!!」
「礼美!」
礼美ちゃんはナルからミニーをひったくると、そのまま部屋へと走っていってしまった。
その後、あたしは礼美ちゃんに謝罪する為に典子さんの部屋に向かったのだが、彼女の機嫌を損ねてしまったのだろう。
礼美ちゃんはあたしの方を振り向くこともなく、喋りかけても返事をしてくれなかった。
「だめだぁ……嫌われたかも……」
ベースに戻ったあたしは、可愛い子に嫌われたかもしれないとかなり落ち込んでソファに寝転がった。
「あれま。かなり落ち込んでんなあ」
「可愛い子に嫌われたら落ち込むものだよ、お兄さん」
「なんかオッサンみたいだぞ、結衣。だがまぁ、小さい子なんて少ししたら機嫌が嘘見てぇに治るから気にするなよ」
ぐしゃりとぼーさんがあたしの頭を撫でた。
その撫で方は少し雑だけれども、心地よく感じる撫で方。
「もっと撫でてよ〜、ぼーさん……」
「よーしよしよし。おにーさんがいくらでも撫でてやる」
こうして見ると、まるで年の離れた兄妹。
自分でそう思うとなんだか虚しくなるような……と思いながらも、ぼーさんに少しだけ甘えた。
夜も更けた時刻。
礼美ちゃんの部屋には今、例のミニーがベッドに座っていた。
その様子をあたし達はモニター越しで見ている。