第10章 悪夢の棲む家
「ぼーさん!」
「よ!ちょっと近くに用事があったから来ちまった」
運転席の窓を開けて法生が笑みを浮かべて顔を覗かせた。
今から本業の仕事なのか、だいぶ格好が派手である。
「本当は未成年はこんな夜遅くに外出すのは駄目なんだろうけど…最近顔見れてなかったからつい」
「……そっか」
逢いに来てくれた。
それが嬉しくてついつい結衣は笑みが零れてしまった。
「今から本業?」
「そ、本業。だからその前に恋人に会って元気を注入してもらいましょうかねぇと思って」
「元気を注入って……」
「ま、顔見れただけで元気になりますわ」
法生は何処か嬉しげにしながら笑う。
結衣より九つ年上だが、無邪気に笑う姿は子どものようでそんなところが彼女は好きだった。
顔を見れただけで元気になる。
それはこちらのセリフでもあると思いながら結衣は頬を少し赤く染めた。
「そういやぁ、ナルちゃん戻ってきて早々に仕事入れるなんてな。断ると思ったけど」
「あたしも思ったけど、依頼人の人が結構思い詰めちゃってたからね。ナルも断れなかったんだと思うよ」
「なるほどな」
「あ、ぼーさん。調査に来る時は覚悟しておいてね」
「ん?」
「依頼人の従兄弟さんがいるんだけど、その人どうも幽霊とか超能力信じてないみたいでさ。詐欺師呼ばわりする系の人なんだ。依頼人の家にいるかは分からないけど、もし会った時の為に言っておくね」
「あら〜。ま、そーいうのは経験もあるから平気だな。教えてくれてありがとうな」
法生は車から手を伸ばすと結衣の頭を撫でた。
「さて、おいさんそろそろ行かねぇと」
「気をつけてね。頑張って」
「頑張ります。あ、行ける予定が決まったらまた連絡するな」
「うん」
車のハンドルに手をかけた法生だが、エンジンをかけずにピタリと動きが止まる。
どうしたのだろうと結衣が首を傾げていれば、法生は彼女の方へと向いた。
「結衣。ちょっと顔こっち」
手招きされて結衣は不思議そうに思いながらも、窓へと顔を近付ける。
すると法生は顔を窓の外へと出した。
「ぼーさん?」
「結衣。目ぇ、閉じろ」