第10章 悪夢の棲む家
「ではもっと安心できる団体を探されてはいかがですか。信頼出来る場所かどうか前もって確認もせずに紹介されるのは、あまり親切な行為とも思えませんが」
正論であった言葉に広田は黙ってしまう。
その様子を少女達ともう一人の眼鏡の青年は『あーあー……』と心配そうに見守っている。
「だから、今、確認しているんだろうが。……そもそも『心霊調査事務所』なんて存在自体が胡散臭い。幽霊だの超能力だのありもしないものを利用して困っている人を騙そうなんて詐欺行為じゃないのか?」
「広田さん!」
「阿川さんはどうなさいます。依頼を取り下げられますか?」
行き過ぎた言動にも思える言葉を吐いた広田を、翠は咎めようして渋谷の言葉にそれを止めた。
そして戸惑ったような表情を浮かべる。
「……ひとつお訊にしてもよろしいですか?」
「どうぞ」
「あなたが責任者ですね?」
「そうです」
「ではよろしくお願いします」
「……翠さん!」
「広田さんには他人事かもしれませんけど、私も母ももう我慢できません。助けてもらえるのならどんな人だってすがりたい気分なんです」
「しかし!」
言い争いに発展しそうな状況に、少女達はハラハラしていた。
だが青年はただ静かに見守っているだけ。
「私は少なくともここが気に入りました。お願いですから私の好きなようにさせてください」
翠のその言葉に広田は何も言えず、ただ俯いた。
「……わかりました」
「引き受けていただけるでしょうか」
渋谷は少女たちが書いた依頼書を読んでいた。
「ひょっとしたら心霊現象ではない可能性が若干ありますが、それでも構いませんか?」
「──心霊現象ではない……と言いますと」
「一見して騒霊現象のようですが、これには疑問が残ります。電気系統のトラブルについては物理的に説明がつきそうですが、詳しく調査をしてみないと断言できません。一度予備調査を行って、その結果次第で正式にご依頼いただくという形でも構いませんが」
「いえ。母がとても気に病んでいて心配なんです。徹底的に調査してください」
「では、お引き受けします。リン」
渋谷と名乗った少年は後ろに立っていた長身の男に依頼書を渡した。
「詳しい段取りについては調査員から聞いてください」