第10章 悪夢の棲む家
少女の言葉に広田と翠は二人で声を揃えて首を傾げる。
すると麻衣という少女はにっこりと二人に微笑んだ。
「ちょっと失礼します」
「麻衣、程々にね……」
その言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、麻衣という少女は依頼書を手にしてからズカズカと少年へと歩いていく。
刺々しい言葉を発しながら。
「つかぬ事をお訊きしますが、何時間飛行機に乗っていたんですか。二十四時間ですか、四十八時間ですか。それはそれは長旅でお疲れでしょうとも。でも阿川さんはもう何ヶ月も飛行機に乗っている以上の緊張を強いられる生活をしているんです」
「騒がしてくすみません……」
響く声に結衣という少女は申し訳なさそうにする。
そして翠と広田は呆気に取られた表情で、麻衣という少女を見ていた。
「せめてこの場で依頼書に目を通してください、所長!」
広田は驚愕した。
十代ぐらいの少年に麻衣という少女が、依頼書を押し付けて『所長』と言ったのだから。
(所長……──ってこっちの子ども(ガキ)のほうが!?)
どう見たって所長とは思えない。
てっきり少女たちと一緒で調査員だと思っていた。
「それとも、そぉぉんなにお疲れでしたらあたしが読み上げましょうか?それでしたらお休みいただきながら依頼の説明ができますけど。なんでしたら安原さんに朗読してもらって、その間に結衣と肩をお揉みしてもよろしゅうございますか」
まるで高笑いの『ほほほ』と聞こえるような笑み。
そんな少女の笑みに少年は無表情だったが、彼女から勢いよく依頼書を取り上げた。
「失礼しました。所長の渋谷です」
諦めたのか、よっぽど麻衣という少女の言葉が嫌だったのか少年もとい、渋谷と名乗った人物は翠と広田の目の前のソファに腰掛けた。
「……きみが所長?本当に?」
「そうですが」
「いくつなんだ?ずいぶん若く見えるが」
「年齢にご不満があるのでしたら、断っていただいても結構です」
「経歴は?」
「広田さん」
質問攻めしそうな勢いの広田を、翠は宥めるかのように呼んだ。
「年齢や経歴をお気になさるのでしたら、ほかをお訪ねください。もっともあなたは依頼者の阿川翠さんではないようですが」
「……ここを紹介したのは俺なんだ。妙な連中だったら申し訳がたたない」