第10章 悪夢の棲む家
母はふらりと固定電話の方へと歩いていく。
『取らなくていいわよ!』
娘の制止も聞かずに母は電話を取った。
すると非通知からの着信であり、電話からはノイズが入った声が聞こえきたのである。
『出テ行ケ 早クコノ家カラ出テ今ケ デナケレバヒドイ目二遭ウゾ』
気味の悪い電話だった。
「──お隣の音が聞こえたりすると『家の中に何がいる』って。足音や話し声や……全部隣じゃなくて家の中から聞こえるって言うんです。家には私と母しかいないのに!……でも私にも家の中で音がしてるように聞こえるんです……」
「実際におうちに何か……それこそ猫が入ってたりなんて事は」
「いいえ……でも母が、窓の鏡に人が映ってたのを見たって。それで鏡にかけたカーテンは閉めたままにしています。それに……あの笹倉さんの奥さんから聞いたんですけど」
仕事帰り、笹倉の夫人に翠は捕まった。
そしてこう囁かれたのである。
『知ってる?ここのおうち、以前住んでた人が自殺してるのよ』
翠は身を震わせたのを覚えている。
「それからは余計に気味が悪くて……」
麻衣と結衣という少女はその話を書き込んでいく。
それが終わったのが見えて、それまで黙っていた広田が少女達に声をかけた。
「君たちはどう思う?やはりこれは心霊現象なんだろうか。建物が古いせいだとではなく?」
「わたしたちにはなんとも……」
「でも確実に変だとは思います。お話をうかがった限りでは、ポルターガイストみたいな感じもするんですけど」
「でも現場を調査してみない事には断言はできません」
「ポルターガイストというのはなんだ?よく耳にするが」
広田の言葉に少女二人は『あー……』という表情になる。
まるで知らないのが当たり前だよね……という感じの表情であった。
「ええと……『騒がしい霊』っていう意味ですね、ポルターガイストっていうのは」
「阿川さんのお宅ではノックの音や騒音、物が移動したりしてますよね。ポルターガイストでよく起こる九つの現象というのがありまして、その中の三つなんです」
「ではやはり家に何かいるのだと?」
「どうでしよう……ポルターガイストは最近ではRSPKといいまして……」
「なに?」
「あ、失礼しました……」