第10章 悪夢の棲む家
『違いますってば!気になるから物の位置には注意してるもの。絶対気のせいなんかじゃないわ。誰かがやってるとか思えないでしょ?』
その時、コツン……という音がした。
翠と母はその音を聞いた瞬間言葉を途切れさせ、目を小さく見張る。
『……今、何か音がしなかった……?』
再度、コツン……という音がする。
その音は窓から聞こえてきて、翠は後ろにある窓の方へと振り返った。
何度も何度もまるでノックをするような音がする。
翠は眉を寄せながらも、椅子から立ち上がった。
『翠……』
生唾を飲み、ゆっくりと鍵を開ける。
そして窓を開けると、母が恐る恐ると聞いてきた。
『……誰かいるの?』
『……ううん。誰も──』
窓の外には誰もいなかった。
「……今もそのノックは続いてるんですか?」
「ええ、ときどき……でもやっぱり外には誰もいないんです。夏になってからはクーラーの故障が多くなりました。いつの間にか設定が暖房に変わってる事も。お風呂に張ったお湯が真っ赤だったり……水道から赤錆が出ているんじゃないかと思うんですけど……修理の人や業者に何度も見てもらってもなんともないと言われるし」
「なるほど……」
「最近は妙な電話がかかってくるんです。混線しているみたいな感じで、雑音がひどいうえ相手の声がすごく遠くて。そのうちに切れてしまうんです。かけてくる相手にも心当たりがないし。そういう事がずっと続いて、母も私もノイローゼになりそうで……!」
顔を手で覆い、翠は泣き出しそうに言う。
そんな彼女の姿に少女たちは眉を下げてしまっていた。
「──近頃は母までおかしくなってしまって」
母は窓を見ていた。
相変わらずカーテンで締切っている、居間の窓だ。
『あそこから誰か覗いてるわ』
『誰もいないわよ。お隣との間は人が入れないぐらい狭って知ってるでしょ』
『いるわよ。家の周りをうろうろしながら家の中を覗き込んでる』
母は窓を指さす。
そして彼女の目はどこか虚ろで、無表情のまま話し出す。
『さっきね、お風呂の掃除をしようとしたら蛇口からまた血が出てきたの。洗い流したくて水を出そうとするともっと出てくるの。どんどんどんどん、どんどんどんどん──』
『お母さん……。あれは血じゃなくて赤錆だって何度も──』
話を遮るように、電話が鳴った。