第8章 呪いの家
「……へええ」
「樹が、教えてくれるんだ……」
「そう。本当を言うと、アタシにはたいした力はないんだと思う。でもね、アタシは巫女だから」
なんだか綾子にしてはカッコイイ。
なんて思いながら、綾子を見つめていればそばに居たぼーさんも関心したように見ている。
結局ぼーさんも心配だから着いてきたのである。
寝てればいいと言われたけれど、気になったのだろう。
「はじめます」
綾子の澄んだ声が響く。
「つつしんで かんじょうたてまつる。みやしろなきこのところに こうりんちんざしたまいて しんぐのはらいかずかずかずかず たいらけく やすらけくらきこしめてして ねがうところを かんのうのうじゅ なさしめたまえ」
木々が揺れている。
いつもの祈祷と違っていて、空気がどんどん澄んでいるのに気がついた。
「──臨」
綾子が指を組むと鈴が鳴る。
「兵」
また鈴が鳴る。
「……あ、あれ……」
ジョンが樹を指さすのでここを見て驚いた。
樹から人のようなものが出てきて来るのだ。
「……人?」
「……なに……?」
「おい、こっちもだ」
あちこちの樹から人が出てくる。
そしてその人々は綾子の元へと向かっていき、榊の枝に吸い込まれるように入っていく。
その度に鈴が鳴った。
(消えた……)
驚いていれば、綾子は指を組む。
すると向こう側から黒い影が見えた。
「綾子、まだあそこに」
「しっ」
麻衣の言葉をぼーさんが遮る。
だがたしかに向こう側から人が来ている……と思ってあたしは目を見開かせた。
さっきの人達とは違う。
黒い影のようなものがこちらに歩み寄っているが、濡れた音がしているのだ。
(……和泰さんと奈央さん……!)
こちらに寄ってきていたのは、濡れた体を引き摺って歩いてくる二人だった。
そして彼らとは別に数人、数十人の人影がこちらに寄ってくる。
囲まれた。
そう思っていると、綾子が榊の枝を手に取った。
「さあ。貴方たちにも眠れるときが来ました」
突然、物陰から人が現れる。
慌ててぼーさんが指を組んだ時、綾子が榊の枝を振った。
するとその人影は消えたのである。
鈴の音に合わせていくように霊が消えていく。
もしかしたら、この人達は綾子に浄化してもらいたくて集まっているのかもしれない。