第8章 呪いの家
綾子は和泰さんと奈央さんに向かって榊を振る。
鈴の音が鳴った時、和泰さんと奈央さんの姿が元に戻ったように見えた。
すると、塚から黒いモヤのようなものが現れる。
「綾子!」
「うしろ!」
あたし達が叫んだ時、綾子が塚へと榊を振った。
鈴の音が綺麗に鳴ったと思うと、塚が音を鳴らして割れる。
綾子は無言で榊を塚の前に刺すと、手をあわせて叩く。
すると鈴の紐が外れて地面に落ちた。
「……たしかに、おれたちは必要ない……」
ぼーさんは呆然としながら呟いた。
「──ねぇ。あんなすごい力あるのにどうして隠してたの?」
「そうそう。なんで言わなかったのさ」
除霊が終わった帰り道、あたしと麻衣はそうたずねた。
「別に隠してた訳じゃないわよ。今までは生きてる樹がなかったんだもん。いつも条件が悪いって言ってたでしょ」
「だって負け惜しみと思うじゃない」
「事情を説明したって負け惜しみだと思うでしょ」
確かにそう思ってしまう。
あたしは無言で頷いてからと、綾子を尊敬の眼差しで見つめる。
「生きてる樹がある綺麗な場所でないとダメなの。最初におじいさんぽい人達が樹から出てきたでしょ?あれが樹の精霊っていうか……まあ、そんな感じのもので、その力を借りるわけ。あれがいなくなった樹は死んでるみたいなもんなのよ。別に神社でなくてもいいんだけどね」
「へえ……」
「それでも都会の神社なんてカスみたいなもんだし。樹にいたってはどんな古い樹でもまるでミイラだしね。あれを見ると世も末だと思うわよ」
「今回はたまたま塚が境内にあったからいいが、なかったらとどーすんだ?」
「近所にあればそこまで呼べるの。さっきだって一揆の五人と伝説の姫なんかもいたでしょ?まあ、あとはそこまで連れていくとかね」
「だったら栄次郎さんを除霊するとき神社まで連れていけば良かったのに」
麻衣の言葉に『たしかに』と呟く。
最初からこれができるのなら、栄次郎さんの時もすれば良かったのに思う。
だったら失敗しなかっただろうに。
「あれは人間にやっても意味がないの。たんなる霊だったら除霊できない霊はないんだけどねぇ。それに一度樹におすがりしたら半年は休ませてあげないと……あの段階で助けた貰ったらいざというとき、役に立たないじゃない。ジョンがくれば落とせるのは分かってたんだし」
