第8章 呪いの家
綾子の言葉にあたしたちは驚いた。
言いたくは無いが、今まで綾子が役に立っているところなんて見たこともない。
除霊は失敗するし、成功しているところもみたこともない。
「……言いたかねぇけど、おまえじゃムリだ。そういうことは、もっと役に立ってから言え」
「今までは事情があったの!今度はできる。アタシに任せて。あんたもジョンも寝てなさい。フラフラしてんだから」
「おまえなあ……」
またぼーさんと綾子が言い争いそう。
そう思ってあたしが止めに入ろうとすると、ジョンが柔らかく微笑みながら言った。
「お言葉に甘えて、松崎さんに任せたらどうですやろ」
「おい、ジョン」
「けど、何が起こるか分かりませんし用心のために着いて行ってもよろしいですやろか。しんどいんで、見るだけにさせてもらいますけど」
「信用できないってわけ?」
「信用することと、無責任に放り出すことはちがうんやないかと思いますです」
「親切で言ってあげてるのに」
「すんまへん」
「謝ってもらうようなことじゃないわよ。あー馬鹿馬鹿し」
なんて言いながら綾子はベースを出ていく。
恐らく巫女装束になったり、準備をするのだろうけれどもなんとも凄い自信である。
綾子はいつも自信満々である。
その度に失敗しているが、今回はなんか違うような気がした。
「……なんだ、あの自信」
「ねー……昨夜も言ってたよ。都合があるとかナントカ」
「都合?なんの?」
「さあ……」
「あたしたちもわかんないや……」
建物を出れば薄藍色の空気に薄いモヤが出ていた。
それを見渡しながら、あたしたちは神社の方へと向かい三六塚の前に立つ。
綾子は巫女装束であり、お酒を一本と鈴がついた榊の枝を持っていて、歩く度に鈴が鳴る。
「綾子、本当にできるのお?」
「任せときなさいって。こんないい場所ははいわよ。ちっちゃいけどちゃんと信仰が残ってる。樹も生きてるし」
「「樹?」」
樹が生きているというのはなんだろう。
なんて思っていれば、綾子はお酒の蓋を外して樹の根元に掛けていく。
「アタシの実家のまえに、大きな楠の樹があってね。注連縄がかけてあるような立派なやつよ。それが小さい頃から色んなことを教えてくれた。病院に来る患者さんの死期まで教えてくれるんで、子供の頃は親に言う度に叱られてたけどね」