第8章 呪いの家
ぐったりと倒れ込んでいるナルをリンさんが支えている。
一体何があったと言うんだと思いながら、あたしは綾子の背中をさすった。
「──こいつはちょっと、厄介な事になったかもしれねぇな」
「え……」
「厄介な事って……?」
ぼーさんは眉間に皺を寄せながらあたしたちを見る。
「さっきのヤツだ。てっきりナルの体と壁をすり抜けて逃げたと思ってたんだが、そうじゃない。ヤツはナルの中に入り込んだんだ。ナルは奴に憑依されてる」
緊急事態だった。
ナルが憑依されたということは、ナカにあのキツネみたいなのがいるということだ。
その後、リンさんはナルをベースとなっている部屋の隣の広々としている部屋に布団を敷いて寝かせた。
気絶させられているのだが、ただ眠っているように見える。
「──さて、これからどうするか……」
「栄次郎さんみたいに縛っておいたほうがいいんじゃないの?」
「ナルをか?後で何言われっかわかんねぇぞ」
「あとが怖いよ、そんな事したら」
縛られて置かれていた。
そんな事ナルが知ったら、ブリザード超えて氷河期時代になってしまう。
なんて思っているとリンさんが呟いた。
「……縛ったくらいでナルを止めることはできないと思います」
リンさんの静かなる言葉に全員が目を見張る。
「どういうことだ?」
「言葉通りの意味です。松崎さんは運がよかったのだと思いますね。恐らくナルに憑依した者もまだナルの使い方をよく分かっていないのでしょう。でなければ松崎さんはとっくに死んでいますよ」
とっくに死んでいる。
その言葉に背筋が冷えるような感覚を覚えた。
「ヤツが本格的にナルを使うことを覚えたら、我々に対抗手段はありません。縛りあげようと監禁しようと無駄です。我々も──ナル自身も、生き残ることはできないでしょう」
静寂が満ちる。
リンさんの口から発された物騒な言葉を噛み砕くように、ゆっくりと理解しようとした。
だけどなかなか理解出来ずに、気絶しているナルへと視線を向けた。
「……どういうことなのか、聞いたら教えてもらえるかね?」
「申し訳ありませんが、わたしの一存では」
「あのなあ!」
「ご不満は分かりますが、わたしには申し上げられません。ここは信じて頂くしかないんです。ナルは貴方がたが想像してる以上に危険は人間だということを」