第8章 呪いの家
『生き残れない』『危険』という言葉が脳裏を巡る。
一体ナルという人間は何者なんだという考えが溢れだしたが、リンさんはそれ以上聞くなと言いたげな雰囲気を出していた。
「……ひとつ聞く。おまえさん、喧嘩は強いか?」
「おそらく」
「ナルとどっちが?」
「殺し合いならナルの圧勝でしょうね」
襖の向こうに眠るナルを全員が見た。
「……了解。つまり簀巻きにして物置に放りこんでも無駄なんだな?となりゃジョンを待ってる余裕はないな。今のうちに除霊してみるしかねぇわけだ」
「たとえブラウンさんでも無理だと思います」
「にゃんだとう!?」
「ナルのように極めて意思が強く、自制心に優れている人間──つまり我が強いタイプの人間は通常憑依されにくい。その代わり一旦憑依されると霊を落とすのは容易ではありません。下手に手だしをして暴走させると危険です。──とくにナルは」
「……じゃ、どうすりゃいいんだ……」
ぼーさんが深く息を吐き出す。
あたしや麻衣もどうしようという雰囲気で顔を見合せる。
ジョンでも無駄、そして除霊不可能。
ならばナルはどうなってしまうんだ、あたしたちはどうすればいいのだろう。
「わかりません。憑依した霊の正体が掴めれば有効な除霊方法が見つかるかもしれません。あるいはわたしにも落とせるかも」
「……となると、とにかく調査を続行するしかないわけだ。でなきゃナルに憑いた霊の正体も分かんねぇしなあ。でもその間ナル坊をどうする?縛っても何しても駄目なんだろう?」
「わたしが禁じておきます。金縛りをかけてこのまま眠らせておくのが最善でしょう。意識があると危険ですので」
「そうすっとナル坊がまったくの無防備になっちまうぞ」
「式を残しておきます」
「アテになるのか?」
「ぜんぶを残せば。わたしの持つ式は五つ。それぞれに得手があり不得手があります。五つで互いに補い合うようになっているのです。全部を残せば完全に安全ですが、そのかわり私に出来るとこはいくらも残りません」
「つまり、おまえさんがパワーダウンしちまうわけだ」
「そういうことになります」
ぼーさんの表情が難しいものになる。
眉間に深く皺を寄せて、暫く何かを考え込んでいた。