第8章 呪いの家
「え、なに!?てことはあんた今まで憑依霊を落としたことないわけ?とんだ霊能者なこと!」
綾子は高笑いしながらぼーさんを煽る。
それに煽られたぼーさんは怒りの形相を浮かべながら、綾子へと振り返った。
「お前が言うなっつーの!何だったらお前に向けて九字を切ってやろーか?何があっても責任はとらねーけどよ」
「何があってもって、どゆこと?」
「九字切ったらダメなの?」
「法力ってのは、直接人に向けちゃいけないんだ。危険だからな」
「ど、どういうふうに?」
「知らん。やった者がいない」
「「へ」」
まさかの言葉にあたしと麻衣は目を見開かせる。
「だから、おれも人間に憑依した霊を落としたことはない。一度壺に憑いた霊を落としたことはあるが──霊は落ちたが壺も見事に粉々になったからなー」
なんてことだ。
あたしと麻衣は顔を見合せてから青ざめてしまう。
「で、でもあたし友達に向けてやったことあるよ。見せてっていうから」
「あたしもやったことある……友達に向けて」
「なーぬー?二度とすんなよ。結衣と麻衣程度だから何も起こらずに済んだんだぞ」
あたし達はそれぞれデコピンを頂戴した。
「「はーい」」
でも、まさか法力は人に向けちゃいけないなんて知らなかった。
それまで普通に見せてとせがまれてしていたが、今度からはしないでおこうと決意する。
それにしても、九字を人に向けて切ったらどうなるんだろうか。
壺みたいな有様になるだろうかと思いながら、少しだけ眉を寄せた。
「一応やってみますか?」
「……いいけど。とりあえず落とすだけなら出来ると思う。でも、また憑いたって知らないわよ」
「このまま栄次郎さんに憑依してるよりマシでしょう。ずいぶんと凶暴な霊のようだから」
ナルの言葉であたしは嫌なことを思った。
下手したら光可さん達は怪我だけでは済まなかったんだな……と思ったところでふと、ある事を思う。
過去に事故や病気で死んだという人達は、本当に全員が事故や病気だったのだろうか……と。
「ね、麻衣。本当に過去に亡くなった人って事故や病気だったのかな」
「それ、あたしも思った……」
ボソリと小さく呟きながら、二人で話しているとぼーさんがこちらを振り向く。
「どうした?」
「あ……ううん」
「なんでも」