第8章 呪いの家
その後、縛られていて気絶している栄次郎さんは物置の部屋へと運ばれた。
「──おし、ここなら多少暴れても大丈夫だろ」
「うん……」
ぼーさんとそう話していると、ジョンに連絡しに行っていたナルが来た。
「あ、ナル。ジョン来られるって?」
「ああ。原さんとあす一番の飛行機で向こうを発つといってた」
「……真砂子も呼んだんだ」
「後手に回りたくない」
ナルのその言葉に、麻衣は面白くなさげに口を尖らせていた。
そんな妹にあたしは苦笑を浮かべながらも、優しく頭を撫でてやる。
後手に回りたくない。
その言葉の真偽は分からないが、これで何時ものメンバーが揃うことになる。
「つうしんで かんじょう たてまつる──」
綾子は相変わらずの巫女装束だ。
正座をしてから栄次郎さん前で祝詞を唱え、その少し離れたところであたし達は見守る。
相変わらずそれをリンさんはカメラで撮影していた。
「みやしろなきこのところにこうりんちんざしたまいて しんぐのはらい かずかずかずかず たいらけく やすらけく きこうしめしてねがうところを かんのうじゅなさしめたまえ──」
栄次郎さんの瞳が勢いよく開く。
そして彼の口から呻き声が溢れ出し、綾子の祝詞が止まった。
「……ね、ねえ。綾子じゃムリなんじゃないの?」
「失敗するかもだよ……」
「かもしれない。どうせあすにはジョンが着く」
「リンさんじゃダメなわけ?」
「相手の正体が分からないからな」
ナルってばこんな時も冷静である。
彼が慌てている所なんてそうそう見たことがない……と思っていた時である。
「──麻衣、結衣」
「はい?」
「なに?」
名前を呼ばれたと思えば、目の前にナルが立っていた。
「さがっていろ」
どうしたのだろうか……と思った時、栄次郎さんから何かキツネのような影が溢れだしているのが見えた。
「静かに外へでろ。リン、麻衣と結衣を連れて行け」
リンさんが静かに立ち上がるとあたしと麻衣の肩を押すので、歩き出した。
そんな時、栄次郎さんが不気味な笑い声をあげる。
狂ったように笑っている。
そしてキツネのような黒いものがゆっくりと立ち上がっていた。