第7章 血ぬられた迷宮
「ナル!」
麻衣が叫ぶ。
その方向へと視線を向けると、そこには『浦戸』の文字。
「ナル、こっちにもある……」
あたしは違う方向を指さす。
そこには平仮名で『うらど』という文字があった。
「ねえ、こっち!」
綾子が指さす方向にも『浦戸』や『うらど』の文字がある。
「これは……」
何故、こんなにも浦戸の文字があるんだ。
そう思っていると廊下の方から走ってくる足音が聞こえてきた。
「あ!人がくるわ、退散しましょう、安原くん。ナル、また明日ね」
「まどか!危険だと言ってるだろう」
ナルの言葉なんて無視して、森さんと安原さんは窓の外へと身軽に出ていく。
「気をつけてな」
「はーい♡」
ぼーさんは何故か呑気に森さんに声をかけている。
「ぼーさんてば、呑気なこといってー!」
「それどころじゃないのに!」
あたし達が文句を言っていると、ぼーさんは困ったような表情を浮かべて窓を閉めてカーテンも閉めていく。
「なんか、彼女、結衣と麻衣とキャラが被ってなー」
それはあたしも思ったので何も言えなかった。
最初に森さんが来た時に、あたしも森さんがなんか麻衣に見えていたのは秘密である。
「ご無事ですか!?」
勢いよく扉が開いて大橋さんが飛び込んできた。
そして部屋の惨状を見てから言葉を零す。
「ああ……やはりこちらも……」
「何があったんですか、大橋さん」
「それが──突然屋敷のあちこちに変な文字が……まるで血で書いたような──」
どうやら、この文字はベースだけではなかったらしい。
廊下の方を覗いてみると、廊下の壁や扉を埋め尽くすように文字が書かれている。
「この家の霊っていったいどれだけいるのよ!?」
「……浦戸ってのは思ってた以上に意味のある言葉らしいな。こりゃあ、たんなるペンネームとは思えねえぞ」
あちこちに書かれた『浦戸』の字。
このペンネームはいったいなにを指しているのか。
「『浦戸に・さ・た・・聞く』──。これの意味がわかればな」
あちこちにある『浦戸』の字と、紙幣に書かれていた字。
謎はそう簡単に解けないなと思っていると、ナルが真砂子の苗字を呼んだ。