第7章 血ぬられた迷宮
「さ、降りて。恐れないで光の方へ行ってご覧なさいな。きっと楽になれますから」
その言葉を合図にしたかのように、麻衣の身体が揺れた。
まるで何かが降りたかのように見える。
「あ……」
「この家に住む霊に憑かれていたようですわ。大丈夫、もう消えました。浄化したかはわかりませんけど……きっと話をしていたので寄ってきたんですわ。いま、話していたお女中さんのようです」
「……その人だ……。……その人なの……昨夜、昨夜夢の中で殺されたの、その人なの……」
麻衣のその言葉が、胸の中にストンと落ちる。
(ああ……あれは、あたしが殺される夢じゃなかったんだ。あたしと麻衣はそのお女中さんの記憶を見たんだ)
あたしと麻衣にとっては夢だった。
だけど、あの人にとっては夢なんかじゃなくて現実だった。
あんな怖い思いをして、あんな殺され方をしたんだ。
「あたしと麻衣が見たのは……その人の記憶だったんだ……」
麻衣とあたしの目から涙が溢れた。
それは同情なのか、悲しさからなのか分からないが、涙が止まらなかった。
「……そういうことか。そうやって殺された霊がこの家をさ迷っているわけか」
あの時あたしが思った『助けて』『死にたくない』。
あれはあたしの思いではなくて、お女中さんが思った願いだったのだ。
そして、降霊会でのあの言葉。
あれはやっぱり霊の言葉だった。
そう思った時、ベースの明かりが全て消えた。
「え……」
「な……」
何事なんだ。
そう思った時、とてつもない悲鳴が聞こえてきた。
それと同時に酷いラップ音が響き、その中に幾つもの悲鳴が聞こえてくる。
「う、うそでしょ!?」
「ラップ音にしても凄すぎる……」
何かを叩く音、叫び声に悲鳴。
とてつもないラップ音に思わず動いてしまう。
「ナ、ナル……」
「動くな!」
数秒後、明かりがついた。
だが部屋に広がっている光景に、あたしたちは目を見開かせるのだった。
「……やだ、なに……?なんなのよ、これ!?」
天井か壁には『助けて』『死にたくない』『いたい』『こわい』そんな言葉がまるで血で書かれたようにあった。
壁や天井を覆い尽くすように。
「なに、これ……」
「──こ……これ……霊がやったの……?」