第7章 血ぬられた迷宮
『慈善だとかやってたらしいけどなァ。ありゃァそんなことするタマじゃねえだで。なんか悪どいことをやっとるのを、誤魔化すための隠れミノじゃろうて聞いとるよ』
「まあ、ほとんどが森さんに報告してもらった調査内容と変わりませんでした。それと、鉦幸氏は小さい頃から身体が弱かったらしいですね」
ペラペラと安原さんはメモ帳を捲っていく。
どれだけ調べたんだろうと思いながらも、新しい情報を記憶していった。
「子供の頃からあまり長生きは出来ないだろうと言われてたそうです。たびたび外遊をしてたそうなんですが」
「外遊?」
「なにそれ」
「ひらたく言うと、外国にいくこと」
外遊の言葉の意味を知らずにぼーさんに聞けば、やれやれと言わんばかりに説明された。
「たんなる外遊というより、外国の医者に診せに行ったというのが正確らしいです。あ、そういえば鉦幸氏がここに住むようになってからですが、下男が二人一緒だったそうです」
安原さんの言葉に、ふと記憶が蘇る。
あの夢を見た時にあたしを連れていった男が二人いたことを。
「それならですね、祖父がここの出入りの植木屋だったというおじいちゃんがいました。なんでも当時ここには生け垣でできた、迷路があったらしいんです」
(生垣……生垣の迷路……)
「母屋があって離れがあって、その間を迷路が繋いでたって言ってたそうですよ。でもおじいさんはこの山荘にくるのは気味が悪くて嫌だって言ってたらしいんです。離れの方に行くと、何時も墓場みたいな嫌な臭いがしてたって。おまけにここに来る度に女中の顔が変わってたって」
ぞくりとした。
安原さんの言葉と夢の内容が少しだけであるが、リンクしているところがあったから。
怖い。
なんとなくそう思って腕をにぎっていると、隣で麻衣が両腕を握るようにして震えているのが見えた。
「──麻衣さん?」
「……麻衣?」
「麻……」
ぼーさんとあたしが麻衣に手を伸ばそうとして、真砂子に制された。
そして彼女は麻衣の肩に優しく手を置いて話しかける。
「……この人はいけませんわ。貴方を救ったりはできません。だって貴方はもう死んでいるんですもの」
その言葉は、麻衣にかけられた言葉ではなかった。
誰か他の違う人にかけている言葉。