第1章 私の恋 夏油傑 (出会い編)
「経験が必要だね。」
「…はい。任務は高専にきてからはまだしてません。」
私の後ろにいた呪霊がふっと消えた。
夏油先輩が戻したのだろう。
思ってた以上にスパルタで、ギャップに驚いたけど、一般家庭出身でもう一級術師なのだから当たり前だ。
むしろこのくらいしごいてくれた方が今の私ならちょうど良かった。
「きっとそろそろ任務も出されるだろうから、自分が持ってる呪霊を色々出して覚えていった方がいい。パッと出せるようにね。」
「はい。」
「それから…さっき出した自分の呪霊に対して話しかけていただろう?」
「はい。私は助力してもらうので、指示を出してお願いしています。」
「なるべく口に出さない方がいいよ。頭で会話はできないのかい?相手に戦術が筒抜けになる。」
「…そっか。」
私は猫型の大きな術師を出してみた。
“いつも一緒に戦ってくれてありがとう。”
頭で思い浮かべてみた。
“前みたいににゃーちゃんって呼んでくれないのかい”
“にゃーちゃん。って勝手に呼んでたの知ってたの?”
“当たり前だろ”
私は私の肩くらいにある高い頭をわしゃっと撫でた。
また消えた呪霊に目をぱちくりさせた。
「会話できたみたいだね。」
「はいっ!出来ました!すごい!」
「才能あるよ。自信持って頑張って。」
ぽんっと乗せられた大きな手。
とたん顔が熱くなる。
「あ、ごめん。」
「…あ、いえ。」
私が顔を真っ赤にしたのがバレたのか、夏油先輩は少し気まずそうに手を離した。
「確かに後輩だからって頭触るのはダメだったね。硝子にはしないから…。」
「ダメってわけじゃ!私の家、お父さんは厳しい人だったから撫でてくれることなかったから…その…嬉しかったです。」
「おと…うさん?」
「…?」
「お父さんね。ふふ。」
夏油先輩は、肩を震わせながら、また私の頭を撫でてくれた。
「お父さんって思ってくれたんだ。じゃあいいかな。」