第5章 二人でアオハル
「あー、抱きたくなってきた。」
「それは、さすがに。」
私の鼻に自分の鼻の先をすりすりと擦り付けながら、うーーんっと唸る悟さんが、さっきまであんなに強かったとは思えない。
「いくら術師最強でも、私の前だと最弱だね。」
「……ん?」
眉を寄せた悟さんに私はくすくすと笑った。
心外だとでも言いたそうだ。
「私が死んだら死ぬんでしょ?道連れできちゃう。」
「最弱なんて言われたの生まれて初めてなんだけど。」
「あれ?怒っちゃった?」
「ムカつく。」
「いった!」
がじっと鼻の頭をかじられた。
「のくせにー。僕に絶対勝てないくせにー!」
「先生のくせにー、研修中に襲うなー。」
くしゃくしゃっと髪の毛を乱すと、私はするりと悟さんの下から避けた。
「ほら、夕食までゆっくりしようよ。着替える?」
「んー。」
ベッドの上でもぞもぞしている悟さんの頭を撫で続けた。
「やっぱり抱きたーい。」
「バカ。」
「じゃあ、また勝負しよう。」
「やだ。絶対勝手にルール決めて勝手に始めるもん。やらない。」
うつ伏せで駄々をこねていた悟さんは顔を上げにまにま笑ってる。
絶対よからぬことを企んでる。
「ちゃんと公平だから。」
「聞くだけ聞こうか?」
そう言うと、立ち上がった悟さんは自分の荷物を漁り始めた。
「じゃーーん!」
「…持って来たの?」
「いっえーす。」
ちゃんとテレビに接続できるドックまで持って来て、いそいそとコードを繋ぎ始めた。
「桃鉄しよ。桃鉄。先に5回目的地に着いた方が勝ち。」
「私やったことないよ?」
「大丈夫。そんなに難しくないから。勝ったら相手に好きなこと命令できる!」
「…命令できる。」
ちょっと魅力的だなー。
桃鉄なら体力やスキルは関係ないし。
「よし、受けてたとう!」
「いいね。じゃあ傑も呼ぼう。三人でやる方が楽しいしね。」