第29章 川品中央総合病院
こう言う時の彼は….
言い方は悪いかもしれないが…
しつこい。
粘り強いとも言うかもしれないが…
つい朝方、ここに向かう時にも似た様な平行線のやりとりがあった。
毎回、こちらが折れている気がしている椛だが…
彼の方に目を向けると、眉毛を軽く下げて、何か物欲しそうな顔をしていた。
そして極め付けの言葉を投げてくる。
安室「それとも、僕とキスするのは嫌ですか?」
少し首を傾げて、彼女を見つめてくるその瞳は、あざとい以外の何者でもない。
椛(あぁ〜…
もう、この人絶対確信犯だよ…
逆にもしこれ、自然にやってるとしたら、
もはや才能でしょ…)
椛「…それ、わざとやってるの?」
安室「それとは?」
どうやら答えてくれる気は無いようだ。
椛「私からキスしたら、安室さんは嬉しいの?」
安室「そんなの…
嬉しいに決まってるだろ。」
彼女からの動きを待っているのか、彼から一切手は伸びてこない。
このままだといつまでも車は発進しない気がして、先程留めたシートベルトを一度外す。
彼の方に身体の向きを変えると、右手を伸ばして彼の髪に触れる。
何度か髪をすくと、彼の髪の中に手を埋めた。
フワフワとした肌触りが心地よい。
彼の太ももに左手を置き、体重を預けて、首を伸ばすと…
彼の要望通り優しく唇を重ねた。