第30章 【人ならざる者】
コツ、コツ、コツ、と踵を鳴らしながら、ヴォルデモートは朽ちかけたホグワーツ城の敷地にゆっくりと足を踏み入れた。戦闘は思ったよりも長引き、一部を除いて膠着状態となっている。
だがそのお陰で、記念すべきホグワーツへの凱旋に、薄汚い豚どもの鳴声が耳に入ることはなかった。
「……ようやく此処まで来たか…………」
ヴォルデモートは瓦礫の山と化したホグワーツ城の大広間に入ると、その匂いを懐かしむように深呼吸をした。因縁のハリー・ポッターとの決戦の場に選んだ大広間には、少なからず愛着があった。
本物の空を写す天井や、何千と浮かぶ蝋燭。各寮ごとに分けられた長テーブルに、孤児院では決して目にすることが出来ないご馳走。学生時代、その全てがまさに夢の様だった。
そして教職員テーブルの中央に設けられた校長席。あの席に座ることを、いったい何度夢見てきたことか。
「もうすぐだ、もうすぐで夢が叶う……」
柄にもなく、感傷に浸ってみる。思い返せば長い戦いだった。
たった1歳の赤ん坊に敗れ、魂のカスとも呼ぶべき残滓としてさまようこと幾年月。やっとクィレルの肉体を手に入れたかと思えば、またしても愛などという下らないものに邪魔をされ、再び肉体を失った。
だがそれもあと少し、あと少しで全ての決着がつく。
ヴォルデモートは懐から杖を取り出し、長い人差し指でツーッと杖をなぞってみた。
最強の杖が自分の肉体と共に地の底に落ちたことは非常に残念だったが、中々どうして。この杖もとても手に馴染む。それどころか、どこか懐かしい感じさえする。
「グレインと言ったか、もしやあの男の?…………いや、まさかな」
学生時代、大勢の生徒たちの中で、唯一印象に残っている男の顔を思い出しながら、ヴォルデモートは再び感傷に浸り溜め息を吐いた。
するとガラガラと瓦礫が崩れる音がして、ヴォルデモートは目を開けた。ようやく宿敵ハリー・ポッターのご登場だ。
それは良いのだが、奴はたった一人ではなく、後ろに数人友を伴っていた。それを見て、ヴォルデモートは苛立ちを覚えた。
(――決闘の作法さえ分からぬとは……)
宿敵と呼ぶにはあまりにも稚拙すぎる。だがか弱き羊がどれだけ集まろうと、勝負の結果は変わらぬ。