第3章 受胎
――夏油side――
部屋に戻る途中、廊下であの女に会った。
バッチリ目が合って女がすごい速さで近づいてくるものだから、私はあわてて部屋に入って鍵を閉める。
あの女の力だから扉ぶち壊されるんじゃないかと思ったけど、何回かドアを思い切り叩いた後、諦めたのか何も聴こえなくなった。
ふぅ、と息を吐きベッドに沈む。
ぐるぐると頭の中は迷路に迷い込んだ子羊のように出口を探せず彷徨う。
生き甲斐にしろっつったり、死ねっつったり。
なんなんだよ。
どうすればいいんだよ。
そう思いたくないのに、お兄ちゃんの事少しムカついちゃうじゃんかよ。
でも、憎めないだろうが。
嫌いになれないだろうが。
大好きなんだから。
家族なんだから。
嫌いになれたら、当の昔に嫌いになってる。
とうの昔に憎んでる。
でもできないから、できなかったから、五条悟を殺して自分も死ぬって決めた。
なのに。
「好き勝手、言いやがって……」
私にどうしろってんだよ。
私はどうすればいいんだよ。
意味わかんねえ、マジで。
明確な答えが目の前に現れてくれればいいのに。
走したら私はなんの躊躇もなくそれに手を伸ばすさ。
「死にたい……」
何度も思った。
死にたいって。
でも、死ななかった。
死ねなかった。
そう、言葉に漏らすだけ。
そうすることで、自分に保険をかけた。
枕に顔をうずめた私は、一度だけ鼻を啜ったのだった。