第3章 受胎
なんていう私の考えをよそに、五条悟は事の経緯を家入硝子に話ていた。
話しを聞き終わった家入硝子はため息をついた。
「お前もバカだね。喧嘩を売ってどうするよ」
「売ってない。買っただけ」
「同じだよ」
そう言って、家入硝子は私の額に手を当てた。
数分後には頭から出ていた血も止まり傷も癒える。
額を触っても違和感一つない。
この術だけはあの五条悟も持ちえないのだ。
この女もまた天才というわけか。
治療が終わり、医務室を出ようとしたら家入硝子が口を開いた。
「で。夏油はまた泣いてたのか」
「は?泣いてねえし。お前の目は節穴か」
「どの口が言ってんだよ。涙の跡残ってる」
「………涙じゃない。雨だし」
自分でも苦しい言い訳だと思った。
「ほぅ。雨を降らせる術式を持ってるやつがいたのか。初耳だな」
クスクス笑いながら、家入硝子はそんな皮肉を交えてくる。
これ以上ここにいたら言わなくてもいい事を言ってしまいそうだ。
早く逃げたい。
「もう治ったし帰る。別にここに来るつもりなかったのに。五条悟のせいだ。ムカつく」
「はいつも何かにムカついてるね。少しここで僕たちと話をしよう」
「嫌だ。絶対に嫌だ。お前らと同じ空間にいたくない」
自分の中に隠している本音をぶちまけたくなかった。
この本音は私の弱さだ。
弱さをこいつらに見せたくない。
だから、私はこの場から逃げる様に医務室の扉をぴしゃりと閉めて自分の部屋へと戻った。