第3章 受胎
――禅院真希side――
【この世界に生きる人間、全員死ねばいいんだ……】
そう言って涙を流したあの女の言葉が頭から離れない。
夏油。
去年の12月24日、百鬼夜行を行った呪詛師・夏油傑の妹が高専に入学したということは知っていた。
"ふざけんな、何を企んでいる"と、知った当初は思っていた。
だってそうだろ。
あいつの狙いは、憂太を殺し特級仮想怨霊・祈本里香を自身の呪霊操術を手に入れることだった。
そのために、私も棘もパンダも他の術師たちも怪我を負った。
その矢先に妹の入学が決まったとなれば、何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。
現に今、あの女は悟を殺そうとしているというんだ。
これが疑わずにいられるか。
……そう、思っていたのにな。
あの場を離れ、私たちはグラウンドに来ていた。
体術の訓練をしようと思ってここに来たのはいいけど、やる気が起きない。
「高菜」
静かな時間が流れていたが、棘がそれを破った。
「おかか、ツナマヨ」
「そうかもな」
棘の言う通り、私たちは勝手にあの女の事を決めつけていた。
悟を殺そうとしていることは事実だとしても、あいつは何もしていない。
それどころか何かをする雰囲気など微塵も感じられなかった。
そう決定づけるのは、やはりあの涙だ。