第20章 幸福
森の中を歩き回ること数分。
私達はやっと目標がいる場所へとたどり着いた。
目の前に広がる光景に、私も七海も言葉を失う。
ただ一人、最強と謳われている男はそれを見てにやりと笑った。
私の目に映るは、大きな七色に光る花のようなもの。
大きさは4~5メートルほど。
「花?」
「いや、これは……花びらが幾重にも折り重なっているだけです」
なんで七色の光っているんだろう。
目を凝らしてよく見ると、花びらの表面を滑り落ちる泡のようなものが火の光や空気に当たりキラキラと煌めき、それが七色に光って見えていたらしい。
幻想的で神秘的な光景は、まるで夢の中にいるような。
その花の中に、誰かがいる。
人、と言っていいのだろうか。
肌は人間と言うには、余りにも色が違いすぎる。
真珠のように白く、夕日のように紅く、宝石のように輝いている。
なんとも言い難い肌の色に、濃紺の瞳が瞬く。
深みを増した太陽の光を浴びたような綺麗な金色の髪がなびいている。
本当にこんな呪霊が存在しているのかと疑いたくなるほど、非現実的で、幻想的で。
手を伸ばせばすぐに消えてしまいそうな、危うい存在。
頭のキャパシティは限界に近かった。
「これが"本体"だよ」
「本体……?」
「たちが出会ったのは分身と言ってもいい」
「……私の姿をしていたのは?」
「君の奥底の欲望を知っているのは君自身だろ?」
ああ、なるほど。
だから私の姿で現れたのか。
私はポーチの中から鍵を取り出そうとした時、"幸福"の唇がふわりと動いた。