第20章 幸福
「二人とも"幸福"に会ったんだ」
ニヤニヤと笑う五条悟の言葉に私は七海を見る。
まさか七海も出会っていたとは思いもしなかった。
「で、どんな夢を見たの?」
「大した夢じゃありません」
「ふうん。その割には目が赤いけど、七海~」
七海の肩に腕を回す五条悟と、思いっきり舌打ちをする七海の構図は高専でよく見る光景。
いつもと変わらないやり取りに少し安心してしまった。
「はどんな夢を見たの~?」
「………猫と、犬に囲まれてる夢……」
「嘘つくの下手過ぎない、二人とも。まぁ戻ってこれたなら構わないけど」
「そういうオマエは夢を見なかったのか」
「僕ぅ~?。あはは、見るわけないじゃん。僕だもん」
「……聞いた私が馬鹿だったよ」
そうだった。
コイツは甘い夢を見るような奴じゃなかった。
甘いのは味覚だけで充分だ。
小さくため息を吐く私に、ニコニコと笑いながら静かに口を開いた。
「僕は今が幸せだからね。今を夢見ても仕方ないでしょ」
「…………」
確かに……。
現状に満足していれば夢を見ることもない、のか。
でも現状に満足するような奴にも思えないんだけど。
「じゃあ、そろそろ"幸福"を捕まえに行こうか」
手を叩く五条悟の声色が若干変わった。
それを合図に私も七海も緩んでしまった気持ちを引き締めた。