第20章 幸福
――夏油side――
「"幸福"の見せる夢は、本物じゃありません。だから、どこかおかしい。それは、夢見る者にとってだけ、都合のいいようにできています。場合によっては、有りえないことも体験できます。だからこそ、人間は夢を見ることを辞められない。夢を見ずにはいられない。ありえない事をありえないと認めることは……辛いものです」
七海のこの言葉に、私は何も言わずにただ前を見据えた。
微かに感じる、五条悟の気配。
【一緒に死んでくれるのか、五条悟】
【うん、そうだよ】
夢の中の五条悟は、とても弱かった。
それが私の望んだものだとしたら、すごく悔しかった。
「そう……。ありえないものを見た……。すぐに諦める五条悟なんて……すぐに負けを認める五条悟なんて……弱い、五条悟なんて……ありえないだろ……。たとえ―――」
私はそれ以上先の言葉を呑みこんだ。
それ以上言ってはいけないような気がして。
そんな私を気遣ってか、七海は私の背中にそっと手を添えた。
「あ!!やっと見つけた!!、オマエはお留守番もまともに……」
私と七海の気配を辿ってきたらしい五条悟は、速足で私達の元へと駆け寄ってきた。
そう言えば私は「待て」と言われた犬状態だったな、と自分の軽率な行動を思い出していた。
このまま叱られるものだと思ったのに、五条悟は私と七海を交互に見渡した後、言葉尻をなくした。