第20章 幸福
「無理やり引っ張りだして……それで、"夢が叶ったよ。嬉しいでしょう、幸せでしょう"だなんて……。所詮、幻の癖に……!!」
吐き捨てる様に呟く彼女の顔は、怒りに満ち溢れていた。
切れ長の瞳はとても冷たく燃えている。
純粋に、疑問に思ってしまった。
一体どんな夢を見たのだろうか、と。
抗い難い夢を餌にし、それを"幸せでしょう"と決めつけ押しつけるのは、卑劣で傲慢な事。
そのやり方に夏油さんは今まさに怒っている。
五条さんが言っていた「幸福を信じられない者は不幸者」という言葉もまた、夏油さん自身に深く切り刻まれているはずだ。
だからこそ彼女はこんなにも……。
「あの下衆外道クズクソ野郎……、全部知ってやがったな……」
「……それ五条さんのことですか?」
五条さんをそこまで言う人は初めて見た。
あの家入さんですら「クズ」止まりなのに。
「"幸福"の見せる夢は、本物じゃありません。だから、どこかおかしい。それは、夢見る者にとってだけ、都合のいいようにできています。場合によっては、有りえないことも体験できます。だからこそ、人間は夢を見ることを辞められない。夢を見ずにはいられない。ありえない事をありえないと認めることは……辛いものです」
夏油さんは黙ったまま、静かに前方を見据えた。