第20章 幸福
"幸福"の恐ろしいと事はそこにある。
"幸福"に会い、幻術にかかれば、かかった人間は何も知らないまま"本物の幸せ"を夢見て、"幸せ"だと思い込む。
そしてずっと幻を見続ける。
だが、人間という生き物は水を飲まなければ2~3日、長くても4~5日しか生きることができない。
幻を見続けるごとに身体は弱まり、それに気づくことなく成す術もないまま、ゆっくりと死んでいく。
死への恐怖も苦痛も感じぬまま。
そんな死に方は「幸福」なのか「不幸」なのか、私には判断できかねますが、恐らく私の目の前の少女はそんな死に方を望んではいないでしょう。
「マジでムカつく……。あんなやり方は許せない……。人間の一番弱いところに付け込んで、本人も知らないような甘い夢を引きずり出して……。そんなふざけた真似―――、あんなの下衆のやる事だろうが……!!」
誰にでも心の奥底にしまっておきたいことがある。
思い出したくないことや、身勝手な思い、どうにもならないことや、現実では決して解決しないこと、実現しないこと。
だからこそ、心の奥底にしまって誰にも見られないように、そっと隠している。
大人である私も上手に隠していたはずなのに、引っ張りだされたのだ。
まだ、子供である彼女の隠し事など簡単に引っ張りだせてしまうだろう。
彼女自身がいくら上手に隠していると思っていても。