第20章 幸福
――七海建人side――
五条さんと夏油さんと離れ、一人"種"を討伐する事数時間。
流石に疲れを感じながらも、私は森の中を進んでいた。
道なき道を慎重に歩きながら、ところどころに咲いている開花前の"種"を破壊する。
その時、ふとした気配を感じた。
草木を踏み、私はその気配のする方向へと向かうと、そこには地面に倒れている夏油さんの姿があった。
「夏油さん!!」
口の端から血を零し、黒い制服にも点々としたシミが付いている。
黒い制服だから目立たないが、これもきっと彼女の血だろう。
夏油さんを抱き起こし、何度も名前を叫ぶ。
「夏油さん!!どうしたんですか!!夏油さん!!」
しかし瞳は固く閉ざされたまま。
五条さんは一体どこで何をしているというのか。
彼女一人にしては"幸福"のいい餌にしかならないとわかっていたから、離れるなと言ったのではないのか。
彼女の身に何があったのかは知らないが、大事な人を失いたくないならちゃんとその手を握っていなくては駄目でしょう。
「しっかりしてください、夏油さん!!」
「七海」
その時。
背後から声が聞こえた。
全身が一瞬にして固まる。
鳥肌が立ち、鼓動が一気に加速した。