第20章 幸福
私は気を引き締め、五条悟の腕を振り払った。
胸を貫かれ、大量の血を出血した瀕死の身体のどこにそんな力があったというのか。
私は立ち上がり、大きく息を吸って吐いた。
すると、辺りの景色はたちまち霧のようにぼやけ、ダイヤモンドダストのようにキラキラと煌めいて消えた。
私は、深緑の森にぽつんと佇んでいた。
2体の特級の姿も、五条悟の姿も、どこにもない。
私の胸に開いた穴もなかった。
ゆっくりと私は顔をあげ、"目の前のもの"を睨み据える。
「これが……オマエのやり方か!!"幸福"!!」
私の前には"夏油"、私が立っていた。
小柄な身体、細い瞳、ショートボブの黒髪。
全てが私と瓜二つ。
違うのは雰囲気だろうか。
【特級呪霊と言えばそうだし、特級呪物と言えばそうとも言える】
五条悟のこの言葉の意味が漸く分かった。
いろんな感情が胸の内に沸き起こり、ぐっと掌を握る。
目の前のそいつは可愛らしく微笑み、小首を傾げ、鈴の鳴るような声で私に話しかける。