第20章 幸福
「これが最後に見る景色になるなんてね」
ぽつりと呟いた五条悟の言葉に私は目を見張った。
胸倉を掴んでいた手は、ゆっくりと自分の体の上に落ちる。
引き寄せられる体。
「ごじょ……」
その先の言葉は、男の唇によって塞がされた。
伏せられる長い睫毛が、目に映って、そして開かれる。
綺麗な瞳と瞳がぶつかり、何故だか私は一粒の涙を零していた。
熱く交わる口付けに、私の中の迷いは消えた。
何処までも真っすぐに私を見つめ、映画のワンシーンのような美しいキス。
静かに離れていく熱が恋しい。
五条悟はいつもと変わらず優し笑みを私に向けた。
そしてもう一度口付ける。
今度はどちらともなくお互いを求めて。
どこにも行く当てもないただの口付け。
それでも何かの形で残しておきたいと無意識に思った。
そういうキスだった。
唇を離し、見つめ合う。
「一緒に死んでくれるのか、五条悟」
そう、瞳で五条悟に問えば。
「うん、そうだよ」
と、五条悟は無言で答えた。
「そっか……」
鼻の奥がツンとした。
「そうか……、そうなのか……」
私は"五条悟"に優しく微笑んだ。
泣きだして喚きたい気分だ。
ゆっくりと目を閉じて、また、開いた。