第20章 幸福
色々な考えが次々と浮かぶけど、その答えはどれも出ない。
特級2体相手に右腕一本ではいくら五条悟と言えど、不利だ。
余計な考えを振り払い、私は鍵を手に五条悟と特級の間に投げ込んだ。
そうすれば、空気が震えたように空間が微妙に歪んだ。
バチン!!という音が鳴り、特級と五条悟の間は引き裂かれる。
「できた……」
今までできなかった新しい技に自分でも驚いた。
火事場の馬鹿力って奴?
「五条悟……逃げろ!!」
私もオマエも戦える状態じゃない。
この場は一旦引いたほうがいい。
そう思って、叫んだら、身体からガクンと力が抜け、地面に膝をつく。
五条悟が慌てたように片腕で私を支えた。
私の顔を覗き込む男の顔は、血の気が引いていて真っ白だった。
五条悟のこんな顔色を見たことがなかったから、なんか新鮮で少し嬉しいと思ってしまった。
何かを言おうとしている五条悟の唇が震えている。
私は男の胸倉をぐっと掴んだ。
「私のことはいいから、早く祓うか逃げるかして、こっから離れろ」
よく映画やアニメなんかで使われセリフを、まさか私まで使うことになるとは。
悔しいけど、こういう時ってそう言う事しかできない。
五条悟の顔が引きつる。
理屈ではわかっていても納得できない、といった様子だ。
どうせ私は放っといてもこのまま死ぬんだ。
だったら、私のことは気にしないで目の前の敵を祓うかこの場から逃げるかを選択してほしいと思った。
だからそう言ったのに、五条悟は私の身体を強く抱きしめる。