第20章 幸福
今目の前に映る"それ"が本当だと認識するのに随分と時間がかかってしまった。
だって、飛んできたものは五条悟の左腕だったから。
後ろを振り替えり、五条悟を見れば左腕を抑えてる姿が目に入る。
左腕は二の腕から先が無く、真っ赤な液体が地面を濡らした。
「五条悟!!」
ドン!!
再び衝撃音が聴こえた。
名前を呼んだと同時に、私の身体が震える。
何が起きたのか、思考を止めてしまったの脳ではすぐに理解することができなかった。
喉にこみあげてきたものが口から溢れた。
どろりとした真っ赤な血液が、制服を汚していく。
それを見て私は初めて、自分の胸が花の特級の枝のようなもので貫かれたのだと知った。
「……っ!!」
痛みも苦しみも何もなくて。
ただ、驚きだけが私を支配した。
ああ、これはもう助からないな。
妙に冷静な頭で、そう思った。
五条悟は横目で私を見ている。
いつの間にマスクを外していたのか、男はその真っ青なビー玉のような瞳で静かに私を見ている。
なんで五条悟は簡単にやられているんだ。
領域展開をして追い詰めたこともあった。
規格外の術式で追い払ったこともあった。
だというのに、今のこいつは何もせずにただそこにいるだけ。
攻撃はしているけど、そのどれもはあの時とは比べ物にならないほど特級に効いていない。
左腕を失う前になんとかなっただろ。
なんで防戦一方なんだよ。