第5章 特級
床や壁に大量の血がこびりつき、その血の先にはまるで粘土を丸めたかのように転がる二つの何かと、下半身と両腕のない男の死体が転がっていた。
「これ、人間、だよな……」
人間がこんな風に団子のように丸まっているなんて、どこのグロ映画のシーンだよ。
惨すぎる現場に、言葉が出てこない。
そんな中虎杖は、上半身だけの男の服をまさぐった。
そして。
「この遺体持って帰る」
「え?」
「あの人の子供だ」
あの人、とはさっき外にいた女性の事か。
それを持って帰るだなんて。
「顔はそんなにやられてない」
「でもっ」
「遺体もなしで"死にました"じゃ納得できねぇだろ」
「……やめろ。こんな姿見せられても困るだろ」
こんな、腕も下半身も無い姿を。
あの人に見せる方が惨すぎる。
「それでも俺は……」
虎杖の言葉を遮るように伏黒がパーカーを掴み遺体から引きはがす。
いつもと変わらない無表情ではあるが、どこか怒気を含んでいる伏黒に、私も釘崎も口を挟めない。
「あと2人の生死を確認しなきゃならん。その遺体は置いてけ」
「振り返れば来た道がなくなってる。後で戻る余裕はねぇだろ」
「"後にしろ"じゃねぇ。"置いてけ"っつったんだ。ただでさえ助ける気のない人間を、死体になってまで救う気は俺にはない」