第5章 特級
常に冷静沈着であるこの伏黒という男は、「善か悪か」は世間の倫理感とか常識じゃなくて、自分の裁量で決めている。
だからこそ、こいつの裁量では今は「助けるべきではない」という結論なのだろう。
だが、虎杖は違う。
救える人間は全員救いたい、それが虎杖という人間だ。
対照的な二人だからこそ、言い争っている。
「ここは少年院だぞ。呪術師には現場のあらゆる情報が事前に開示される。そいつは無免許運転で下校中の女児をはねてる。"2度目"の無免許運転でだ」
「!」
「オマエは大勢の人間を助け正しい死を導くことに拘ってるな。だが、自分が助けた人間が将来人を殺したらどうする」
ひゅっと喉の奥が鳴った。気がした。
伏黒の言っていることは正しい。
今優先するべきは生存者の確認。
だけど、虎杖の行動も間違っていると言いきれない自分がいる。
こんな姿であっても、一目会いたいと思ってしまう。
どんな姿であっても、一目会いたかったと思ってしまった。
「いい加減にしろ!!時と場所をわきま―――」
二人のやり取りに釘崎が痺れを切らし割って入ろうとした。
その時。
釘崎は床に吸い込まれるように姿を消した。