第5章 特級
はは、と笑う伊地知さん。
わかっていないな。
私のことこんな風に慰めておいて、自分のことに関してはからっきしなのかな。
だから五条悟にいいように使われていると言うか、気に入られているのかもしれないけど。
「何もできない人が、こうやって人を慰めたりできるもんですかね」
「それしかできないんですよ、私には」
「立派だと思いますよ」
「ありがとうございます。……そう言えば質問にちゃんと答えていませんでしたね」
「え?さっき答えたじゃないですか」
「私は夏油という人物を評価しています。私なんかに評価されたところで嬉しくはないと思いますが。でも、周りの評価など気にせずに仕事をこなすあなたの姿はとても素晴らしいと思っています。私の目に映る貴方はそういう人です」
運転する伊地知さんの顔はこちらからはちゃんと見えない。
けれど、それだけで十分だった。
伊地知さんの言葉は、嘘がないからこそ。
本心なんだってわかった。
私をちゃんと見てくれてちゃんと評価してくれた。
静かに涙が頬を伝う。
伊地知さんの言葉は的を得ていた。
自分で自分の事を見てほしいと言いながら、私が私を縛っていた。
夏油傑の妹という誇りがあって固執していた。
夏油傑の妹、という肩書に一番拘って縋りついていたのは、まごう事なき自分自身。
それを伊地知さんはちゃんと指摘してくれた。
解放してくれた。
「伊地知さん」
「はい、何でしょうか」
「ありがとうございます」
「私は何もしていませんよ」
そう言って、彼は優しく笑う。
私は、こんなにもいろんな人から護られていたんだなと、この時初めて知った。