第3章 受胎
聴こえる、赤ちゃんの泣き声、母親の懺悔。
耳にこびりついて、頭が痛くなる。
ぎゅっと、胸を抑え私は呪いの源となる呪霊を探す。
それはあっけなく見つかった。
本殿の中にそれはいた。
何体かの呪霊がまるで身体を寄せ合うようにまとまっている。
その様子が母親に甘える赤子のように見えてしまい、ぎりっと奥歯を噛んだ。
こんな呪霊になるまで、どんだけ自分を追い詰めたんだよ。
「もう、いいよ。今すぐ楽にしてあげるからさ。次は、生きて生まれて来れるといいな」
私は呪霊に鍵を優しく差し込み、左手を回した。
「"破錠"」
散り散りに砕かれる呪霊は跡形もなく消えさる。
気配のなくなった神社には静寂が訪れる。
望んだ妊娠も。
望まない妊娠も。
どちらにせよ。
生まれてくる命は、人を選べない。
この世の理の一つだ。
私にとっては生き地獄だけど。
それでも新しい命には、地獄じゃない別の何かであってほしいと思う。
本殿には塔婆や我が子を思って作ったものなどが並んでいる。
どんな形であれ、彼らは母親の中で呼吸をしていた。
どんな形であれ、腹の中にいた命を失くした。
双方の心の痛みや悲しみが、嫌でも想像してしまいそそくさに私は本殿を後にした。
入った時と同様に。
鳥居を通って外へ出た。
「お疲れ様です」
「……帰りましょう」
別にそこまで大変な任務じゃなかった。
だけど私の精神は大きくすり減った。
駅まで送ってもらう車の中。
私は自分の腹に残る違和感に、顔をしかめていた。
腹の真ん中に据わる臓器が、蠢いているような、変な感覚。
「具合でも、悪いんですか?」
「いえ、別に……」
きっと精神的に参っているから体調がおかしくなっているだけだ。
吐き気にも似た気持ち悪さはあるけど、帰って休めば治るはず。