第3章 受胎
東京から群馬までは新幹線で約1時間と少し。
その間、音楽を聴いて心を沈ませていた。
耳から通って脳を刺激するクラシックは、荒ぶる私を落ち着かせる。
今聴いてるのは、メヌエットとエリーゼのために。
どれも名曲だ。
ゆっくりと目を瞑り、音に身を委ねた。
群馬に着くと、駅には補助監督の奴が私を待っていた。
神社までの距離を考えると歩くなんてバカなことはできなかったから渋々乗った。
目的地に着くまで私は何度も資料を読み返す。
水子供養。
この世に生を受けることができなかった胎児の冥福を祈ること。
望んだ妊娠。
望まなかった妊娠。
どちらにせよ。
この世に生を受けることなく母親の中で死産した命は、母親の感情を負へと誘う。
悲しみ、後悔、懺悔。
いろんな呪いが渦巻いている。
真っ赤な鳥居の前。
私は目の前の神社に目を細める。
資料には確かにこの神社の名前があった。
が、想像していたものと違った。
朽ちるのを待つかのようなその神社の佇まいは、異様なもの。
その割に参道の奥の拝殿は存外立派だ。
そして渦巻く憎悪の念も。
深い、本当に深いため息を吐いた。
「3級だけどさぁ……」
これ、私がやっちゃいけねえ案件だろうがよ。
私だって女だ。
いつかは好きなやつと付き合って、結婚して子供だって産みたい。
そう思っているのに、これは、きつい。
だけど、ずっとここで突っ立っているわけにもいかずに、私は鳥居を通った。