第3章 受胎
「わかった、行ってくる」
「その前にちょーっと待って。今日入学してくる一年いるから、紹介するよ」
同時に教室の扉が開く。
入ってきたのはウニみたいな髪の毛をした目つきの悪い男。
「伏黒恵君でーす。僕の弟子」
「まじかよ。お前が師匠とか私だったら首つって死ぬね」
「そこまで言わなくてもいいでしょうが。恵、この子は夏油。仲良くするんだよ、数少ない同級生なんだから」
「お前が、夏油ね……」
「なんだよ、その含みを持たせた物言いは。はっきり言えや。それとも言えないのか。どっちだよ」
「すげえ煽ってくんな。呪術界でお前の事知らねえ奴いねえだろ」
それは、「そういう意味」で私が有名だと言われた気がした。
だからなんだ。
もう慣れた。
そう言う目で見られるのも思われるのも。
誰も「私」を見てくれないのだと気づいた時から、もう私は何かを期待する事を諦めている。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
それ以上ウニ頭と話すことはない。
私は手を振って私を見送る男とウニ頭を睨んで教室を後にした。
「恵、は繊細だから優しくしてやって」
「俺は別にそんな風に言ってないんですけど……」
「でも、あっちはそう思ったよ。高校一年で準一級の実力があるとなれば呪術界では有名だけど、違う意味でもあの子は有名だからさ」
そんな会話がされているなんて知らずに。
校門で待っていた補助監督を素通りし、東京駅へと向かった。
後ろから慌てたような声が聞こえたけど、今は誰の顔も見たくない。
特に呪術界の連中とは。