第31章 契約破棄
それから、母が父と同じ勤務先の病院を辞めたこと。
不倫相手の男が逮捕されたことを話してくれた。
『夢のところにもこれから警察が事情聴取に来る。蜂楽くんや親御さんには迷惑がかかるかもしれないが…。』
「うん…解った。」
「迷惑なんかじゃありません。」
重い話の空気を突然引き裂いたのは、優さんだった。
真ん中に入り込み、私と蜂楽と肩を組む。
私達ふたりは、画面からフレームアウトした。
「蜂楽廻の母です!はじめまして、夢ちゃんのお父さん。」
『蜜浦です。娘がいつもお世話になってます。直接挨拶にも行けず、申し訳ない。』
「いえいえ!奥様が退職されて、先生ますますお忙しいでしょう?
私も母ですから、出産がどんなに大変か解ります!ひとりひとりお産は違いますから、ご苦労も多いでしょう?」
挨拶の後、優さんは待っていたかのように語り始める。
「この夏、自分の個展にアシスタントとして夢ちゃんに同行してもらったんです。
お恥ずかしい話、人と話すのもきらびやかな雰囲気も苦手で、在廊中疲れてしまって…。気取ったセレブのお客さん達と、うまく喋れなかったんです。」
夏に大阪で開催した“廻物展”。
豪華なシャンデリアがあるラグジュアリーなギャラリーで、慣れないドレスアップをしてた優さん。
絵の具がたくさん付いた作業着姿で、いつもフランクに振る舞う優さんは……
蜂楽が乗り込んで来る時までは、硬かったっけ。